近年、音楽シーンで「ネオシティポップ」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。かつて80年代に一世を風靡したシティポップが、なぜ2020年代の今、新しい形として再定義され、若者や海外のリスナーを熱狂させているのでしょうか。
この記事では、ネオシティポップの定義や2020年代における立ち位置、そしてオリジナルのシティポップとの具体的な違いについて深く掘り下げていきます。J-POPの歴史を紐解きながら、現代の音楽ファンが知っておきたい知識を分かりやすくまとめました。
今の音楽トレンドを把握することで、普段聴いている楽曲の背景にある面白さをより深く感じられるはずです。最新のヒット曲からインディーズシーンまで、ネオシティポップの魅力を一緒に探っていきましょう。
ネオシティポップと2020年代における定義とは

ネオシティポップとは、1970年代後半から80年代に流行した「シティポップ」の要素を現代的に解釈し、再構築した音楽ジャンルを指します。2020年代に入り、その定義はさらに広がりを見せ、単なる懐古趣味ではない独自の進化を遂げています。
「ネオ」が意味する現代的な再構築
ネオシティポップの「ネオ」には、単に古い音楽を模倣するのではなく、現代の技術や感性で新しい価値を生み出すという意味が込められています。かつてのきらびやかな都会の夜のイメージを引き継ぎつつも、今の時代に合ったサウンドを追求しているのが特徴です。
具体的には、80年代のファンクやディスコ、AOR(大人向けのロック)の要素に、現代のヒップホップやR&B、エレクトロニカの要素をミックスさせています。これにより、幅広い世代にとって親しみやすくも新しい、独特の浮遊感を持った音楽が誕生しました。
現代のアーティストたちは、過去の名曲をリスペクトしながらも、DTM(パソコンでの音楽制作)を駆使して、より洗練された音作りを行っています。このハイブリッドな姿勢こそが、ネオシティポップを定義付ける重要なポイントと言えるでしょう。
2020年代の音楽シーンでの立ち位置
2020年代の音楽シーンにおいて、ネオシティポップはもはや一過性の流行ではなく、主流の一つとして定着しています。その背景には、ストリーミングサービスの普及によって、過去の音源と最新の音源が等列に並ぶようになった環境の変化があります。
SNSやYouTubeを通じて、かつてのシティポップが世界的に再評価されたことも大きな要因です。これにより、日本の若手アーティストたちが自国の音楽的遺産に目を向け、それを現代風にアップデートする流れが加速しました。
現在のネオシティポップは、テレビのタイアップや大型フェスでも欠かせない存在となっています。爽やかで心地よいメロディは、日常生活のBGMとしても親しみやすく、多くのリスナーの生活に溶け込んでいます。
リバイバルを超えた独自ジャンルへの進化
かつてのシティポップが「リバイバル」として注目された段階を経て、現在は完全に独立した一つのジャンルとして確立されています。単に「昔っぽい」という評価を超え、今の若者のリアルな感情や風景を描き出す手段となっているのです。
例えば、歌詞の内容もバブル期の豪華な生活を想起させるものから、現代的な孤独感や、何気ない日常の美しさを歌うものへと変化しています。サウンド面でも、生楽器の温かみとデジタルな質感を絶妙なバランスで融合させているのが現代流です。
このように、ネオシティポップは過去の焼き直しではなく、2020年代を生きる私たちの感性に寄り添う形で進化を続けています。時代ごとに形を変えて受け継がれる「都会的なポップス」の精神が、そこには息づいています。
80年代シティポップと2020年代ネオシティポップの違い

同じ「シティポップ」という名前を冠していても、80年代のオリジナルと現代のネオシティポップには明確な違いが存在します。時代の空気感や制作環境の違いが、音の質感やメッセージ性に大きな影響を与えているのです。
制作環境とサウンドの質感における違い
80年代のシティポップは、バブル経済を背景に、多額の予算をかけて豪華なスタジオで超一流のミュージシャンが集結して制作されていました。生のブラスセクションや弦楽器を多用した、贅沢で重厚なサウンドが特徴です。
一方、2020年代のネオシティポップは、自宅で制作を完結させる「ベッドルームポップ」の流れを汲んでいるものも多く、よりコンパクトでスマートな音作りが主流です。打ち込みを主体としながら、あえてノイズを混ぜるなど、独特の空気感を演出しています。
この制作環境の変化は、音の立ち上がりや余韻の違いとして表れます。80年代が「広大な空間を感じさせる音」だとすれば、現代のネオシティポップは「ヘッドホンで聴いたときに耳元で心地よく鳴る音」を追求している傾向があります。
【80年代 vs 2020年代の比較表】
| 比較項目 | 80年代シティポップ | 2020年代ネオシティポップ |
|---|---|---|
| 制作拠点 | 大規模レコーディングスタジオ | プライベートスタジオ・自宅 |
| 中心楽器 | 生ドラム・ベース・ギター | シンセサイザー・打ち込み |
| 音の傾向 | ゴージャス・ハイファイ | ローファイ・チル・浮遊感 |
| 歌詞の舞台 | リゾート地・都会のナイトライフ | 日常の部屋・夜の散歩道 |
歌詞のテーマと時代背景の差
歌詞の面でも、時代の違いは鮮明に表れています。80年代の楽曲は、高級車でのドライブ、ホテルのラウンジ、煌びやかな夜景など、憧れの都会生活やリゾートでの情景が描かれることが多くありました。
対して現代のネオシティポップは、もっと等身大な視点が中心です。コンビニへの帰り道や、部屋で一人スマートフォンの画面を眺める時間など、よりパーソナルで内省的な歌詞が目立ちます。きらびやかさよりも「エモさ」が重視されるのです。
これは、現代のリスナーが華やかな成功物語よりも、日々の暮らしの中にある小さな彩りや、淡い切なさに共感を抱く傾向があるためです。豪華なパーティーではなく、一人の夜に寄り添ってくれるのがネオシティポップの魅力と言えます。
リスナー層と普及プロセスの変化
かつてのシティポップは、ラジオやレコード、そしてトレンディドラマなどを通じて主に20代以上の大人たちに向けて発信されていました。音楽は「憧れのライフスタイル」を演出するためのツールとしての側面も強かったのです。
しかし、現代のネオシティポップは、主にSNSや動画プラットフォームを通じて、10代から20代を中心に広まっています。アルゴリズムによって好みの曲がサジェストされる中で、ジャンルや年代を問わずフラットに音楽を楽しむ層が主なリスナーです。
また、海外のリスナーがアニメやYouTubeのキュレーション動画をきっかけにシティポップを発見し、その影響が逆輸入の形で日本の若手に波及したという点も、現代特有の現象と言えるでしょう。
かつてのシティポップが「外の世界」へ向かう音楽だったのに対し、現在のネオシティポップは自分の「内面」や「日常」を整えるための音楽として機能している側面があります。
ネオシティポップを彩る音楽的特徴とコード進行

ネオシティポップが持つ「どこか懐かしく、それでいて新しい」感覚は、緻密に計算された音楽的要素によって生み出されています。ここでは、このジャンルを象徴するサウンドの秘密について解説します。
シティポップ特有のコード進行「IVM7→III7→VIm7→V7」
ネオシティポップを構成する最も重要な要素の一つが、ジャズやフュージョンのエッセンスを取り入れた複雑なコード進行です。特に、切なさと高揚感が同居する「おしゃれ」な響きを演出するために、セブンスコードやテンションコードが多用されます。
有名な進行として、「IVM7(メジャーセブンス)から始まる進行」が挙げられます。これが使われると、曲の始まりから浮遊感が生まれ、聴き手は一瞬で都会的なムードに引き込まれます。この進行は、80年代から現代まで変わらず受け継がれている王道の手法です。
また、コードの響きを濁らせずにクリアに聴かせるアレンジも特徴です。重低音を強調しすぎず、中高音域のシンセサイザーやギターのカッティングを際立たせることで、ネオシティポップらしい軽やかさが生まれます。
都会的な雰囲気を醸し出す楽器構成
楽器の選び方においても、ネオシティポップには独自のこだわりがあります。まず欠かせないのが、80年代を彷彿とさせるシンセサイザーの音色です。FM音源のようなキラキラとした質感や、パッド系の温かみのある音が重なり合い、層の厚いサウンドを作ります。
ギターは、歪みの少ない「クリーントーン」によるチャカチャカとしたカッティングが基本です。これによりリズムに躍動感が生まれ、曲全体がタイトに引き締まります。ベースも、ルート音を弾くだけでなく、メロディアスなフレーズを奏でる「歌うベース」が好まれます。
さらに、現代のネオシティポップでは、これらのアナログ的な楽器音に、ローファイ・ヒップホップの影響を受けた「くぐもったドラム音」やデジタルなエフェクトを組み合わせることが一般的です。これが、現代的なエッセンスを加える秘訣となっています。
「チル」と「グルーヴ」の両立
ネオシティポップの大きな魅力は、リラックスして聴ける「チル」な感覚と、思わず体が動いてしまう「グルーヴ感」が両立している点にあります。テンポは速すぎず、BPM100から110程度の、歩く速さに近いリズムが多く採用されています。
この絶妙なテンポ設定が、深夜のドライブや家でのリラックスタイムに最適な心地よさを生み出します。歌詞を追うだけでなく、音の波に身を任せるような楽しみ方ができるのが、このジャンルの特徴です。
歌い方も、力強く熱唱するスタイルよりは、力を抜いたウィスパーボイスや、語りかけるような柔らかな歌唱が好まれます。この「脱力感」こそが、2020年代のリスナーが求める心地よさと合致しているのです。
世界中に広がるネオシティポップのネットワーク

2020年代、ネオシティポップは日本国内の流行にとどまらず、グローバルな現象へと発展しました。この背景には、インターネットを通じた国境のない文化交流と、新しい音楽視聴のスタイルが深く関わっています。
YouTubeとアルゴリズムが果たした役割
ネオシティポップの世界的ブームを語る上で、YouTubeの存在は欠かせません。数年前から、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」などの80年代の名曲が、YouTubeのレコメンド機能によって世界中のリスナーに発見されました。
この動きに連動して、現代の日本人アーティストの楽曲も「Japanese City Pop」というカテゴリーでプレイリスト化され、瞬く間に世界へ広がりました。アルゴリズムが、過去の傑作と現代の新しい才能を結びつける役割を果たしたのです。
また、アニメーションのループ動画を背景にした「24時間ライブ配信」などのチャンネルも、ネオシティポップの拡散に大きく寄与しました。視覚的なノスタルジーと音楽が結びつくことで、言葉の壁を超えた支持を獲得しました。
海外アーティストへの影響とコラボレーション
日本のシティポップに影響を受けた海外のアーティストたちが、自らの解釈でネオシティポップ的な楽曲を制作するケースも増えています。韓国の「K-City Pop」や、東南アジア、欧米のインディーズシーンでも、同様のサウンドが数多く生まれています。
最近では、日本のネオシティポップを代表するアーティストが、海外のプロデューサーと共同で制作したり、海外公演を成功させたりすることも珍しくありません。かつてはドメスティック(国内向け)だったJ-POPが、普遍的な音楽ジャンルとして認識され始めています。
このような国際的な交流によって、ネオシティポップはさらに多様な音楽要素を取り込み、日々アップデートされています。各国の文化が混ざり合うことで、より多層的で豊かなジャンルへと成熟しているのです。
「ヴェイパーウェイヴ」との相互作用
ネオシティポップの広がりには、インターネット上の音楽ムーブメントである「ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)」も影響を与えています。これは、80年代の消費文化を皮肉ったり懐かしんだりする、コラージュ的な音楽ジャンルです。
ヴェイパーウェイヴのリスナー層が、サンプリング元となった日本の歌謡曲やシティポップに興味を持ち、それがネオシティポップへの関心に繋がりました。古いものを「クールな素材」として再発見する感性が、両ジャンルの橋渡しとなったのです。
この文脈では、音のクオリティだけでなく、レコードのジャケット風のイラストや、カセットテープのような質感といった「視覚的な記号」も重要な要素となります。音楽を中心とした一つのカルチャーとしての広がりを見せています。
【世界へ広がった主な理由】
・YouTubeのアルゴリズムによる意外な発見
・アニメ文化と親和性の高いビジュアルイメージ
・ストリーミングサービスによる手軽な視聴体験
・ヴェイパーウェイヴなどネットミームとの結びつき
2020年代を代表するネオシティポップ・アーティスト

現在のネオシティポップシーンには、多種多様な背景を持つアーティストたちが登場し、独自の音楽性を発揮しています。ここでは、今のシーンを象徴する注目すべきアーティストたちを紹介します。彼らの音楽を聴くことで、ジャンルの幅広さを実感できるでしょう。
ジャンルを横断する新世代の旗手「Vaundy」
2020年代の音楽シーンを語る上で欠かせないのが、作詞、作曲、編曲、さらにはデザインまで手掛けるマルチアーティスト、Vaundyです。彼の楽曲には、シティポップの要素を巧みに取り入れたものが多く存在します。
例えば、代表曲の一つである「東京フラッシュ」は、洗練されたギターのカッティングと都会的なメロディが印象的なネオシティポップの傑作です。しかし、彼はそれだけに留まらず、ロックやヒップホップなど、あらゆるジャンルを自在に行き来します。
Vaundyの音楽は、特定のジャンルに縛られることなく、その時の感性で最高のポップスを作り出すという、現代的な「ネオシティポップ」の精神を体現しています。彼の圧倒的なセンスは、多くの若いフォロワーを生んでいます。
日常をダンスフロアに変える「Lucky Kilimanjaro」
「世界中の毎日をおどらせる」をコンセプトに活動するLucky Kilimanjaroも、ネオシティポップの流れを汲む重要なグループです。彼らの音楽は、ダンスミュージックのビートを基調としながらも、メロディや歌詞にはシティポップ特有の爽やかさと都会的な情緒が溢れています。
シンセサイザーを多用した煌びやかなサウンドは、まさに2020年代のネオシティポップそのものです。しかし、その歌詞は「日常の何気ない瞬間を肯定する」という、現代人にとって非常に共感しやすい内容になっています。
彼らの楽曲は、通勤中や家事をしている時など、生活のあらゆる場面に彩りを与えてくれます。気取らないけれどおしゃれ、そんな絶妙なバランス感覚が多くの支持を集めている理由です。
ネット発のクリエイティビティ「imase」
SNS動画プラットフォームから一気にスターダムにのし上がったimaseは、2020年代的なネオシティポップの新しい形を示しています。彼の楽曲「NIGHT DANCER」は、日本のみならず韓国をはじめ世界中でバイラルヒットを記録しました。
中毒性のあるリズムと、耳に残るキャッチーなメロディラインは、シティポップが持つ「大衆性」を現代のスピード感で見事に表現しています。自宅で音楽を作り、SNSで発信するというスタイルは、まさに今の時代の象徴です。
imaseのようなアーティストの登場は、音楽制作のハードルが下がり、個人の感性がダイレクトに世界へ届くようになったことを証明しています。彼の音楽からは、新しい時代の自由な空気が感じられます。
これらのアーティストに共通しているのは、過去のジャンルに固執するのではなく、自分たちの感性で「今、聴きたい音」を追求している点です。その結果として、シティポップのエッセンスが自然と染み出しているのが現代の特徴です。
ネオシティポップの2020年代における定義と違いのまとめ
ここまで、ネオシティポップの定義や2020年代の音楽シーンにおける特徴、そして80年代との違いについて詳しく解説してきました。ネオシティポップは、単なるリバイバルを超え、現代のテクノロジーと感性が融合した独自の音楽ジャンルとして進化を遂げています。
80年代のシティポップが「華やかな理想郷」を描いていたのに対し、2020年代のネオシティポップは「愛おしい日常」にフォーカスしているという違いがあります。制作環境がスタジオからベッドルームへと移り変わったことで、よりパーソナルで内省的なサウンドが生まれたのも大きな特徴です。
また、コード進行や楽器構成に見られる音楽的なこだわりと、SNSやストリーミングを通じたグローバルな広がりが、このジャンルをより強固なものにしています。VaundyやLucky Kilimanjaro、imaseといったアーティストたちは、その精神を現代のポップスとして鮮やかに表現しています。
ネオシティポップという言葉の定義は、時代とともにこれからも変化し続けていくでしょう。しかし、その根底にある「都会的で洗練された、心地よい音楽」を求める心は、いつの時代も変わることがありません。この記事を通じて、あなたが新しい音楽の楽しみ方を見つけるきっかけになれば幸いです。

